東京高等裁判所 昭和42年(行ケ)69号 判決
〔判決理由〕
二 よつて審決の当否について検討する。
(二) まず本願、引用両商標の類否について考察する。
(1) 本願商標の称呼観念について
<中略>本願商標が……ゴヂック体で「DOGLIFE」の欧文字と「ドッグライフ」の片仮名文字とを、上下二段に左横書きして成るものである……から、その構成上本願商標から原告主張のように「ドッグライフ」の称呼観念が生ずることは否定できない。しかし、本願商標をその指定商品飼料との関係から考察するとき、それは「LIFE」、「ライフ」の称呼観念をも生ずるものとみられること以下のとおりである。
まず、審決もいうとおり「DOG」、「ドッグ」は犬をあらわす英語として、また「LIFE」、「ライフ」は生命、生活、活力等を意味する英語として、いずれもわが国でよく知られた語であるところ、これを本願商標におけるように「DOGLIFE」、「ドッグライフ」と一連に書いても、わが国において右のような各意味をもつ右二つの語のそれぞれと違つた別個の意味をもつた語となるとか、あるいはまた全体が一体的なものとして独自の印象を与えるとかいつたようなものではなく、これを見る者または聞く者に、このような意味での緊密な結合を感得させるものではないのであつて、これを見聞する者は、その前部である「DOG」、「ドッグ」が「DOGの」として後部の「LIFE」、「ライフ」を形容するものとして理解し、「DOG」の「LIFE」、(犬の、いのち―等―)といつた意味を感受するというのが、わが国における英語の知識からみて一般的であるといえよう。
ところで被告は、飼料の取引にあつては、供用動物を示す文字等を使用することが慣用的に行なわれているというが、<証拠>によつて認められる被告主張の各既登録例の存在の事実や被告提出のその他の書証のみによつては、飼料の取引において、供用動物をあらわす文字等のある商標が慣用的に用いられている事実は肯認できず、<証拠>によつて認められる原告主張の各既登録例の存在の事実および原告本人の尋問の結果と対比して考えると、被告主張のような事例も多少はあるが、広く行なわれているわけではないのであり、そして他方また、小売業者等にあつては、包装等に商標のほか、別に供用動物を示す文字等をあらわして、用途を示すということも行なわれているという実状にあることが認められるとともに、右の原告本人の供述のみによつては、この後者の取引方法もいまだ一般化しているものと認めるには充分でない。これを要するに本願商標の指定商品たる飼料の取引においては、商標によつて供用動物を示すものもあるが、いまだ一般化しているとはいえない反面、商標のほかに、供用動物名をあらわして用途を示すことも行なわれているが、これも必ずしも一般的に行なわれているとはいえないというのが実状であるとみられる。
前記のとおり、本願商標を構成する文字が「DOG」「ドッグ」の「LIFE」、「ライフ」として理解せられる可能性が多分にあるとみられ、さらに原告本人の供述と本件口頭弁論の全趣旨とによれば、最近においては、犬等を始めとして各種動物が職業的ないし専門的に飼育されるほか、一般家庭で愛玩用その他に飼育されることがしだいに多くなり、これに伴つて各種動物用の飼料を輸入ないし製造販売することがしだいに盛んに行なわれるにいたり、小売店等では各種動物用の飼料を袋詰め等にして包装のうえ、店頭に陳列して販売し、一般の顧客の吸引に努めるという状況にあることが認められるのであつて、かような需要者層の拡大と大衆化、取引方法の多様化等の事実を合わせ考えると、本願商標がその指定商品たる飼料に使用されるときは、需要者、取引者としては、「DOG」、「ドッグ」用の「LIFE」、「ライフ」印として理解し、そしてこれがため識別力の弱い「DOG」、「ドッグ」の部分を省略して、「LIFE」、「ライフ」と称呼観念することも少なくないであろうことは見易いところというべく、すなわち本願商標は「LIFE」、「ライフ」の称呼観念も生ずるものというべきである。
なお、原告は、審決が、「簡易迅速を旨とする取引界においては本願商標は時に略して「ライフ」(LIFE)とも称呼観念せられ」るとして、それから「LIFE」「ライフ」の称呼観念が生ずるとしたのを、あわて者を標準としたものであるとして非難するが、前記認定によつて明らかなように、本願商標がその指定商品に使用せられるときは、商標の構成等諸般の事実から考えると、通常の注意力を有する需要者、取引者についてみるとき、やはり「ライフ」と称呼観念される可能性も多分にあり、決してそれが稀有ないし異例のこととはみられないのであり、審決もこの趣旨に出たものであることは明らかであるから、原告の右主張は理由がない。なお原告は、需要者、取引者は本願商標を略して「ライフ」と称呼観念しても、「ドッグ」印の「ライフ」であることを意識している筈であるとして主張するところがあるが、前記認定によつて明らかなように、「ドッグ」印の「ライフ」というよりはむしろ「ドッグ」用の「ライフ」として認識され印象づけられる可能性の方が多いとみられるのであつて、原告のこの主張も採用の限りでない。
(2) つぎに引用商標の構成……より「LIFE」、「ライフ」の称呼観念が生ずることは明らかである。
してみれば本願商標と引用商標は「LIFE」、「ライフ」の称呼観念を共通にし、相類似する商標であるというべきである。
(二) そして……右両商標の指定商品が相抵触し、また本願商標が他人の既登録商標である引用商標より後願のものであることはいずれも明らかであるから、本願商標は商標法第四条第一項第一一号に該当するものというべく、これと同趣旨のもとにその登録を拒絶すべきものとした審決は相当である。
三 以上のとおりであるから審決の違法を主張してその取消を求める原告の請求は理由なものとして棄却………する。
(多田貞治 古原勇雄 杉山克彦)